姜信子

水音に導かれ、あれもこれも、あまりに当たり前のことばかりを想いだすのである。たとえば、ほら、人は水がなければ生きてはいけないということ。水は水辺だけにあるのではなく、緑豊かな山があってこそ、山の奥の幻の湖があってこそ、澄んだ清水も湧き出づるのだということ。地の底にも川は流れているのだということ。地の底の川は青いのだろうか? そんなことを一生懸命に語り合うような心持ちがあらばこその、地の底の川なのだということ。地上の川にかけられた石橋の、石のぬくもりを感じる力があってこそ、川も山も守られるのだということ。